---電報

 

 

鳳蘭さんの恩師の話。

 

 

 

恩師の学生時代の友人で Aという人がいた。

友人たちはよくAの下宿に集まっては酒を飲んだりしていた。

 

ある日、夜も大分ふけた頃

いつものようにAのところに集まって酒を飲んでいると

一通の電報が届いた

 

「キトク スグコイ」

 

差出人は 栃木県の病院名が書いてある

 

夜中のことゆえ、詳しいことを問い合わせることもできず、

取るものもとりあえず、Aは 仲間に見送られて旅立っていった

 

 

 

 

 

ひとり上野駅から旅立っていったAは 電車を乗り継ぎ

栃木県の北部に向かうローカル線に乗り込んだ

 

乗り継ぎ駅には蒸気機関車が待機しており

まだ蒸気機関車が走っていたのだ、ということに感動した。

 

客車の中は そう古くもなく、きれいで

レトロな雰囲気で、見るものがみな めずらしかった

 

 

ずいぶん、長い道中だったように思う

ようやくたどり着いた病院では、Aの到着を待っていて

さっそく病床に案内された

 

そしてそこには、全身、包帯だらけになって

顔も包帯でわからない、年も見当もつかない男が横たわっていた

 

古めかしい、木造の大きな病院で、

忙しそうに動き回る看護婦たちは

頭に大きな白い帽子のようなものをかぶり

白い看護服は、ふわりとすその長いスカートが床に届きそうで

いくら田舎にしても、奇異な感じがした

 

 

そこに横たわっているのは 誰だか分からないけれど、

自分を待っていたと言うし、人違いでもなさそうなので

しかたなくAは

「俺だよ! 俺だよ!」

と 呼びかけた

 

しかし 瀕死の病人は、答えることもせず

Aの顔をみるばかりだった

 

 

 

Aは 他に方法もないので、

病人のそばについていたが、

まもなく病人は亡くなった

 

病院のスタッフに聞いても

運び込まれた時はすでにこの状態で分からないと言うし

とうとう 誰だか分からないまま その男は死んでしまった

 

 

 

 

Aは、とりあえず東京に帰ることにして、帰路に着いた

 

行きと同じように 旧型の黒いタクシーに乗り

駅まで送ってもらうと

また、蒸気機関車に乗って、宇都宮の駅に着いた

 

そこからは、電車に乗って 下宿まで帰ってきたのだが

死んだ男が誰だったか、どうしても分からない

親類のあちこちに電話して聞いてみたのだが

誰も、そんな男は知らないという

 

 

 

狐につままれたような思いで

病院のことを調べてみたが、

その病院は、ちゃんと実在していることが分かった

 

そして、

その病院のパンフレットを取り寄せたとき

Aは あっと思った

 

 

 

周りの風景はさほど変わらないにしても

 確かに木造であった病院の建物は

  近代的な白いコンクリートの建物に変わっていた

 

そしてパンフレットに写っている看護婦たちは

普通の格好をした看護婦の制服を着ているのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Aは 今は教師として、教壇に立っている

あのときのことを思い出して生徒たちに話すこともあるのだろうか

 

 

 

 

2004.4.11