口笛

 

 

わたしの叔父は いつも口笛を吹いているような人だった

 

背中に羽がついているかのように

飄々(ひょうひょう)と 自由な風のように 生きていた

 

いつも上機嫌で くつろいでいた

 

 

よれよれになるほど わたしが遊んだ、赤と白の派手な模様や、らくだの絵がのトランプが

   Marlbolo マルボロ   Camel  キャメル

   煙草の絵柄だと知ったのはずっと後だ

 

 

祖父母の家には

叔父が持って来た、ハンモックが ときどき裏山の木にかけられたり

夏休みの、涼しい木陰に カーキ色の折りたたみベッドが置かれたりした

 

 

蔵の薄暗い棚には、外国製の絵が描いてある木箱が雑然とあって

そこここに叔父の存在を感じさせた

 

 

祖母が使う 針箱は 今思えば外国製の葉巻の箱だったろう

なんの表示も無いカーキ色の平たい缶詰が ジャムの缶詰だったり

冷蔵庫には

日本製のコカコーラとは味の違うコカコーラが冷やしてあったりした

 

 

 

昭和の初めに生まれた叔父が、どんな青春時代を送ったか知らない

叔父は、結婚したことがない

 

祖父母の晩年には、毎週のように遊びに来ては

どこかにドライブに連れ出していた

 

 

祖父が逝き

 

わたしの伯母である 姉がまだ五十代で亡くなったとき

葬儀のあと、父を振り返って、

「さぁみんな・・・なんだ? ふたりっきりになっちゃったんだな。

           もうひとり いるような気がしてしょうがないよ。」

と 愕然としていた

 

 

 

それからその後

    祖母が死んだとき

 

        叔父は なにかを無くしたのだろう

 

 

もう

 森の中にも

 蔵の中にも 

叔父の気配はしない

 

 

 

わたしの家の物置には 叔父のカーキ色の折りたたみベッドが

布地もボロボロになってしまったが 捨てられずにとってある

 

 

 

映画のロケとか言っていたが

  叔父は 家財道具をワンボックスカーに詰め込んで

                          旅から旅へ 

あまり住所には帰らず、

連絡も途絶えがちで 私の父を心配させた

 

 

 

 

いま、叔父は病床にある

 

わたしの従兄弟と彼の美人の奥さんが

 子供たちが独立してしまった家が広くてしかたないから と 

                 彼を病院から自宅に連れていった

 

二人の あたたかい家の陽だまりで

死の床につきながら

叔父は いま 口笛を吹いているだろうか

 

 

 

 

 

2004.2.20